ヲトメ恋愛赤裸々白書






 私は日記を書くのが好きだ。
小学生の頃は宿題でもないのに毎日日記を書いて先生に提出していた程だ。迷惑な生徒である。
 私は時折、古い日記を読み返す。
 そこには二度と綴れない私の姿がある。


 2001年7月18日の日記にはスジャータというタイトルがついていた。
 スジャータ。コーヒーに入れるミルクに確かそんな商品名の物があったが、何故この日のタイトルがそれなのだろうか。
 そこには、当時通っていたスポーツジムのインストラクターについて書いてあった。私が密かにノビィと呼んでいた彼は、私が初めてジムに行った時の体力測定をしてくれた人だった。気さくで話しやすく、私はわりと好印象を受けた。
 数日後、2度目に会った時もノビイは初めて会った時の事を覚えていて、
「お仕事の帰りですか? 今日2回目ですよね?」
とさわやかな笑顔を私に向けてくれた。
 趣味の話、明日の予定の話。
 ノビィの日に焼けた笑顔とその肌に映える白い歯が眩しい。
 仕事柄誰にでも同じように接するのだろうが、私はノビィと話すのが楽しみになった。

 ところが、翌日会社の先輩に彼の事を話してみたところ、意外な返事が返ってきた。
「ああ、あの人ね。私話したこと全然ないわ」
 ジムはこの先輩の紹介で入った。先輩は随分長くこのジムにいるのに、彼は先輩には話しかけなかったのだろうか。
 私とはあんなに話すのに?
 偶然かもしれないし、先輩が覚えていないだけかもしれない。けれどもその事実は、単純な私を舞い上がらせるのには十分すぎるものだった。

 この日の日記には、さもその発見が大したことがない日常の出来事であるかのようにさらっと語られている。しかし、間違いなく当時の私はノビィにプチ片想いしていており、日記を書きながら気分はウキウキだったであろう事を、今の私は確信する。
 根拠は冒頭で触れた日記のタイトルだ。

 かくして私のジムライフは、予想外に楽しく切ないものとなるのだった。


 ここまで読んでもタイトルの意味が判らない人は、スジャータのキャッチコピーを思い出して頂きたい。ご存じだろうか。
「褐色の恋人」
 ノビィは、趣味がサーフィンと剣道。日に焼けて、潔い程に褐色の肌をしていた。



...2003.07.31.thu.





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